日々の想い

子どもたちへの想いや母の日常をつづります

あの日のこと6

あの日も雨が降っていた 

正確に言えば降り出した

 

家を出たときには降っていなかったのに

あの街に着いたら降り出した

その日も空が泣いてくれていた

私の心に寄り添うように静かに静かに泣いている空

 

駅前のブルーの看板のコンビニで

黒っぽいけれどピンクの線が入ったかわいい傘を買った

 

およそコンビニのビニール傘とは思えない程かわいらしかった

 

いつものようにタクシーに乗り込んだ

歩いたら40分ぐらいかかる距離

タクシーに乗ってもなじみのない街並みは目的地に着くまで遠く感じた

 

その日はこっそりきたから

物干し場になっている場所のシャッターが開いていた

 

チャンス到来

 

私は物干し場に腰かけてメールを打った

 

こちらに来ています

 

すぐに鬼のような形相をした彼がやってきた

 

・・・帰って!ここは◯◯(義家の苗字)の敷地!・・・

 

すぐさま

・・・私も◯◯です!・・・

 

と言い返す私

 

義母もやってきた

 

・・・△△(息子の名前)があっちでお母さんを呼んでいるよ・・・

私はてこでも動かないと決めていた

ここを動いたらシャッターを閉められて追い出されるに違いない

 

今日はここに泊まるつもりで来たのだから

 

小さめのボストンバックにパジャマとタオルと洗面具だけ入れて

私は子どもに会いたい一心だった

 

例のごとく

 

・・・警察を呼ぶ!・・・

 

とわめく彼

 

さすがに義母は近所の手前体裁を考えて彼をたしなめはじめた

 

そしたら彼は私の荷物をシャッターの外へ放り出した

 

雨の降るコンクリートの駐車場にボストンバックは飛んで行った

 

ここでボストンバックを取りに言ったらシャッターを閉められて終わりだ

 

私はカバンを放り投げられても

動かなかった

 

業を煮やして彼と義母は家に入っていった

 

そのすきに素早くボストンバックを取りに走った

 

するとまた彼が出てきた

 

そして私の手からボストンバックをもぎ取り

 

また思いっきり遠くへ放り出した

 

 

そして家に入っていった

 

私はしばらくして様子を伺いながらまたボストンバックを取りに外へ出た

 

今度は遠かったので戻る前に相手に気付かれてしまった

 

 

シャッターを閉める音がした

 

 

 

振り返ると背の高い影がシャッターを降ろしている

 

よく見ると長男の様だった

 

雨の中必至でダッシュした

 

シャッターにたどり着きそうになった時

 

思いっきり突き飛ばされた

 

私はコンクリートにたたきつけられ雨の中倒れこんだ

 

一瞬記憶を失っていた

 

 

なぜ 自分がここに倒れているのかわからなかった

ここどこだったっけ・・・?

あ、そうだ 私は子どもに会いにこの街にきて

義家に泊まるつもりで来たんだった

 

そこまで思い出して何とか立ち上がったとき

頭がみるみる腫れていくのを感じた

 

手を頭に触れるといびつなぐらいにたんこぶが出来ている

 

とっさに冷やしたいと本能で感じた

 

義家の家のインターフォンを鳴らした

 

・・・すみません! すみません!・・・

 

無情にもドアはピクリともしない

 

雨が強くなってきた

 

ああ 傘も中にあるんだった

 

せめて傘を返してもらわなければ

 

・・・すみません!傘を取らせてください!・・・

 

ドアは開けられることはなかった

 

 

何とか頭を冷やしたい

 

その想いだけで力を振り絞って薬局目指して歩いた

 

近所の薬局は店先が暗く閉まっているようだったので

その隣の化粧品店に入った

 

中に華やかで美しいお店のひとがいた

 

優しい笑みでずぶ濡れの私を迎え入れてくれた

 

・・・頭が腫れていて冷やしたいのだけれどアイスノンかなにか売っていますか?・・

 

そう聞いたように思う

 

アイスノンはなかったけれど保冷剤を貸してくださった

 

・・・どうしたの?・・・

 

その人は優しく聞いてくれた

 

私は今までのいきさつを話した

 

・・・まあ あなたが◯◯さんちのお嫁さん!お嫁さんは病気で来ていないと聞いていたわ・・・

 

私の話を優しくゆっくりと聞いてくださった

 

・・・おばさん、傘を見てきてあげる・・・

 

 

しばらくして帰ってきたその人は言った

 

・・・傘出してくれてもいなかったよ もうここには来ない方がいい 冷たい人たちだね・・・

 

そして全く化粧をしていない私の頬と唇にファンデーションとチークとリップを塗ってくれた

 

・・きれいになって元気になりなさい 子どもたちとはきっと会えるから・・・

 

私はお礼に一つカバンを買った

 

もうここには来ちゃいけない

その人の優しい言葉が胸に染みた

 

子どもたちの心も辛かっただろう

 

後日この時の話を長男に聞いた

 

義母は家の中で拝んでいたらしい

私が帰るようにと

 

 

あまりにも冷たい理不尽な仕打ち

雨の中倒れたあの日

 

家族って何だったんだろうと涙が溢れた

 

わたしには出来ない

やっぱり根底に流れている価値観が違っていたのかもしれない

 

 

 

踊り傘 和傘 桜吹雪 紅色

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